MÚSECA(ミュゼカ)というアーケードの音楽ゲームがある。
2015年12月に稼働を開始し2018年に最後に公式からの更新は途絶えている。
更新が途絶えた影響でゲームセンターに置かれなくなり、現存するのはごくわずかだ。
ごくわずかの筐体に5年ぶりに会いにいった記録である。
MÚSECAとは
知らない人のためにこのゲームの特徴を簡単に触れる。
画面下の5つのボタンらしきものと足元にあるペダルを操作する。
画面奥から流れてくるオブジェクトを音楽に合わせタイミングよくさばいていくゲームだ。
ボタンらしきものはスピナーと呼ばれる。
押すことの他に回すことができる。
押す・回す・踏むの3つの操作でリズムに乗ってプレーする。
こう聞くと難しそうだが慣れれば簡単だ。
上手ではなかったがこのゲームに筆者はかなりのめり込んでいた。
MÚSECAは一度大型アップデートがあり「イチトニブンノイチ(1+1/2)」というタイトルになった。しかし2を迎えることはなかった。
大人気ゲームにはなりえなかった。その理由は後述する。
最後の更新は2018年の6月末日。
見る人が見るとこれは最後とわかる告知だった。
この前に3か月ほど更新連絡がなく、筐体がゲームセンターから姿を消し始めていたし、「ソフトバージョンXXX以降が対象となります」の文言は更新の途絶えているゲームが最後に残す文言なのである。
筆者はこれで最後を察したが、1個だけとても許せないことがあった。
それは「Everlasting Message」という楽曲を追加したことだった。
この楽曲はMUSECAと同じ制作会社KONAMIの音楽ゲームで、
現在も大人気のアーケードゲーム「SOUND VOLTEX」の中でも屈指に人気の曲である。
コンテストの最優秀楽曲であり特別な場で披露された。
筆者はこのゲームもやっていたからこそ、
こんな最後のタイミングではなく普通にやりたかったのだ。
前述の通り撤去され始めていた中、プレーすることもできなかった。
Everlasting:永遠に、続く、いつまでも変わらない
最後の最後にそんな・・・
粋な計らいに見せた皮肉に思えた。
なぜ会いに行ったのか
「最後の更新」後に自分の行動範囲にはもちろん筐体はなく、
「Everlasting Message」に触れることなく何年もたった。諦めていた。
ただ、昨今KONAMIは別の音楽ゲームでMÚSECA発の楽曲を収録している。
これは「移植」と呼ばれる。
移植される先は前述した「SOUND VOLTEX」がほとんどだ。
数曲ずつ何度も何度も移植されている。この移植自体が人気なのだ。
あの頃は人気に火がつかなかったのに。
かくいう筆者も移植を死ぬほど喜び、またしてほしいと願う。
MÚSECAの楽曲の50%は移植されただろう。
その度に思い出す。「Everlasting Message」のことを。
5年経ち、もう会いに行ってもいいのではと思えてきた。
今の自分は5年前の大学生の頃より何倍も余裕がある。
重い腰を上げてMÚSECAが現存するゲームセンターを調べることにした。
旅程
旅程というほど大したものはなく、調べると3本の電車で行けた。
茨城県つくば駅。
電車賃は片道1000円以上かかったが今の自分には端金だった。
しかも1時間程度しかかからない。
5年前はそもそも「最後の更新」の件で不貞腐れていたし、
全てを遠ざけていたのかもしれない。行こうと思えばいつでも行けたのだ。
つくば駅から徒歩10分。デパートと形容してふさわしいかわからない建物、
その地下にあった。AMジャムジャムつくば店だ。
対面
忽然とさも今も続くゲームかのようにそれは並んでいた。
謎に煌びやかに光るボタン。たまに流れるチュートリアルと中央のキャラクターを演じる内田真礼の声。なぜか斜めのフォント。
全てが懐かしかった。
5年ぶりにあったそれに、高揚が止まらなかった。
郷愁とはこういうものなのか。
そして今からプレーできるのだ。
KONAMIの音楽ゲームで共通して使えるIDカードをかざす。
サービスが終了しているわけではないので、サーバにあの頃の全てが残っている。
それを呼び起こした。(注1)
いざプレー
まずはどこにも移植されていない楽曲を遊ぶ。
移植されていない楽曲は余すことなく遊ぶつもりで来た。
「Vampin’ Magic」だ。
この曲はMÚSECA特有のギミックである「回す」が楽しい。
曲調もハロウィンを連想させる怪しさとテンションの高さを持ち合わせる。
ギミックも懐かしい。体が半分くらいは覚えている。
流石に勘が戻っていなかったのでスコアは高くない。
あの頃よりも音楽ゲームは上手くなった自負があったが感覚も大事だ。
独特な数字のフォント、漢字での評価:優。全てが懐かしかった。
なお右下CURATOR SKILLは「最後の更新」と同時に追加された要素である。
この要素はスコアによってスキル値が加算されていく仕様らしい。
「最後の更新」以来プレーしていないので0からのスタートだ。
続いてやったのが「魔法少女幸福論」。ボーカロイドで有名な楽曲だ。
いきなり版権曲かと思われるかもしれないが、
このMÚSECAの「魔法少女幸福論」はAメロ→Bメロ→サビ→Cメロ→ラスサビの構成を持つ。曲のいいところをくまなく味わえるものだということを宣伝したい。
こういう版権曲も普通程度にはあった。J-POPはなかったがインターネット発の音楽は十分にあったと思う。
続いてやり残した曲。
この「ネコクマウササー」のスコア、みづらいが999278。
これは1個だけ、完璧でない。
思えばこれをやり尽くし、パターンをほとんど覚えた。
むしろ配置が来る前に身構えてしまい押せなくなるという
いわば癖までつけた思い出がある。
やり残したまま、回収する前に「最後の更新」が来てしまった。
今の自分なら埋められる。そんな自負と共に。
満点の100万点。金色の「傑」。やり残したことを回収できた。
幸せだった。
ここから約3時間やり続けた。
ここの全てを語ってもいいが、余白が足りない。
なぜ大人気になれなかったか
閑話休題でこれには触れておこうと思う。
筆者が思うのはこれである。
1.音楽ゲームの基本がなってないと思われた。
音楽ゲームには満点があるのが通例である。完璧にこなせば満点が出る。
直前で見せた100万点や最高の評価(金色の傑など)がある。
これがある種のモチベーションになり、プレーヤーを焚き付ける要素だ。
しかしMÚSECAは最初、リザルト画面の左にあるGraficaと呼ばれるキャラクターによってスコアの上限や下限が変わるという設定があったのだ。
キャラによっては100万点を超える点が出ることもあれば、出ないこともある。
満点の価値が分かりにくくなってしまった。
キャラゲーとも思われてしまったのが痛い。
大きく批判を受けたのか、
「イチトニブンノイチ」のバージョンアップのタイミングでこの仕様はなくなった。
Graficaはスコアに影響を及ぼさない。そういう仕様になった。
ただ最初に見限ったプレーヤーは戻ってこなかったと思われる。
2.曲が新進気鋭すぎた
音楽ゲームといえば楽曲。これをコンテストで募集した。
コンテストで募集するのは「SOUND VOLTEX」でもあり、こちらは大人気だ。
MÚSECAにおいても決定的に違うということはない、ただ他の音楽ゲームに収録された前例のない作曲者の曲が多かった。
1も相まって既存の音楽ゲームプレーヤーが寄る理由も無くなってしまった。
この楽曲たちは今、評価されている。
だからこそ移植が盛り上がっている。時代がやっと追いついた。
他にはややボタンが重いこと、曲数自体が少なかったことも挙げられるが何より、
1が致命的すぎてプレーヤーが寄り付かなかったことが痛かったとみている。
ついにメッセージに向き合う
プレーすること3時間弱。
「Everlasting Message」に向き合うこととなった。
レベルは15。最大値だ。製作陣の気合いの入れようも見える。
信じられないほど難しい。
「良」など再度やった曲でも数曲しかない。ただ楽しい。
SOUND VOLTEX側でも重要な曲であるからこそ細部にリスペクトがある。
曲の隅から隅まで知っているからこそ楽しく叩けた。
その日の締めくくりにふさわしい体験だった。
これが「MÚSECA2」で出会えたらどれほど良かったか。
いや逆に最後でなければこのタイトルの曲を移植することもなく、
出会うことはできないのか。やはり皮肉に思える。しかし最高だった。
また会いに行きたいと思いながらその場を後にした。
続くことの価値
一つ取り上げたい曲がある。
「Star☆Beat」だ。
SOUND VOLTEXに移植された楽曲の一つ。
今KONAMIは「BEMANI PRO LEAGUE」という音楽ゲームのプロリーグを主催している。SOUND VOLTEXはその参戦機種の一つである。
この曲はプロリーグで選手が選曲した。
それは1勝を取れば勝利、ただしエースを張る選手に立ち向かわなければならない。そんな極限の状況で投げられた。名試合を彩る曲。(注2)
MÚSECAをプレーしていた当時、この曲は響かなかった。
ボーカルはいつも他の機種で中毒性の高い曲を歌っているのに、
この曲は一味違う。あまりしっくりこなかった。
イメージが違いすぎて好きになれなかった。
しかしプロリーグで曲の印象はぐっと変わった。
あの試合を思い出す1曲、そしてMÚSECAはそのルーツとなった。
長年続くSOUND VOLTEXに移植という形で埋め込まれ、
そこから新たな物語が生まれたのだ。
それを噛み締めることができたという意味で、
5年経った今行く価値はあった。
時を経て良さがわかるようになる。時を経てひょんなことから物語が勝手に追加される。そういうこともある。
稼働し続けることで歴史が生まれ新たな面白さが生まれる。
続かなければ生まれない。
たびたびKONAMIは続いているゲームにMÚSECAの曲を移植をしてくれる。
続いているゲームにMÚSECAは遺伝子として組み込まれ、
新たな感動が生まれる。それ自体は嬉しい。
ただMÚSECAが続いていたらもっと嬉しかっただろう。
だから今筆者は自分の好きなゲームが、コンテンツが続きますように、
盛り上がってくれますように、と祈りながら応援している。
だから「BEMANI PRO LEAGUE」を応援している。
記事を書いている。
注
(注1)サーバにデータが残っているため、
いつでもサービス再開が見込めるのでは?と思うかもしれない。
実は筐体自体が残っていない。
MÚSECAの筐体のほとんどは「ビシバシCHANNEL」というゲームに改造(コンバージョン)される。
なお筆者はこのゲームで遊んだことがある。楽しい。
(注2)BEMANI PRO LEAGUE SEASON2
クォーターファイナル第1試合
レジャーランドvsGAME PANIC。
「Star☆Beat」はレジャーランドのPNT*EEB(ぺんた)選手が選曲。
GAME PANICのエースであるCH(かねこ)選手に立ち向かった。
筆者はBEMANI PRO LEAGUE SOUND VOLTEXにおいて展開予想記事・振り返り記事を更新している。以下は振り返り記事。